脚本ほかスタッフ/SF設定/音楽に惹かれて『17才の帝国』を観た
普段あまり詳しくないジャンル(AI×政治×青春×ドラマ)だからこそ、あえてチャレンジしてみようと観てみました! 今期ドラマで最終話放送されて、完結したばかり。
作品について
『17才の帝国』は吉田玲子 脚本による、2022年春のオリジナル連続ドラマ。
【作】吉田玲子:アニメ『けいおん!』『ガールズ&パンツァー』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
【プロデューサー】佐野亜裕美:ドラマ『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』
【主題歌】坂東祐大 feat. 塩塚モエカ(羊文学)「声よ」
【キャスト】神尾楓珠、山田杏奈、星野源、緒方恵美(声の出演) ほか
【音楽】坂東祐大、Tomggg、前久保諒、網守将平
【制作統括】訓覇圭
上記の5作品全て視聴済ですが、
吉田さん脚本作では他に、『マリア様がみてる』『ARIA』『カスミン』『たまこまーけっと』『リズと青い鳥』なども思い出深いです。
吉田さんにはいつかやりたいと思っていたモチーフとタイトルがあって、それが佐野プロデューサーの提案に合致し、NHKの全世界配信を見据えたドラマとなったそうです。
「SFを作るんだったら、私が普段連ドラをご一緒している脚本家の方より、違うジャンルの作家さんと仕事がしたいと思ったんです」
「もうすでに吉田さんの中でタイトルも決まっていました」
「0.1%の視聴率にとらわれず、今本当にやるべきだと考えるものをやれるのがNHKのドラマだと、そんなことも思っています」
あらすじ
舞台は202X年。日本は深い閉塞感に包まれ、世界からは斜陽国の烙印を押されている。出口のない状況を打破するため、総理・鷲田はあるプロジェクトを立ち上げた。「Utopi-AI」、通称UA(ウーア)構想。全国からリーダーをAIで選抜し、衰退した都市の統治を担わせる実験プロジェクトである。若者が政治を担えない理由は、「経験」の少なさだと言われてきた。AIは、一人の人間が到底「経験」し得ない、膨大な量のデータを持っている。つまり、AIによっていくらでも「経験」は補えるのだ。それを証明するかの如く、AIが首相に選んだのは、若く未熟ながらも理想の社会を求める、17才の少年・真木亜蘭(まきあらん)。他のメンバーも全員20才前後の若者だった。真木は、仲間とともにAIを駆使し改革を進め、衰退しかけていた地方都市を、実験都市ウーアとして生まれ変わらせていく―。
印象的なセリフとシーン
「君にはあって 僕が失ったもの。君の言うとおり、経験は時に人を臆病にさせ、腐らせる。
何かを得る代わりに大切なものも失っていく。それでも まだ青い夢を追いかけることはできる。色々なところへ歩いていってください」
「表向きはどう説明しますか?」→「表も裏もありません」
政治だけでなく自分達の性格や生活も、何かを得れば何かを失うかもしれないけれど、トレードオフだからこそ試した上で何が良いかを模索するのが大切で。
失敗を認めることも、受け入れることも、また新たなスタートを切ることも。
しかも即効性の正解は無くて。
視聴者も同じ状況になったらと、思わず”考えてしまう仕掛け”のある作品でもありました。
これはジャンルは違えど、実写映画『花束みたいな恋をした』にも通ずる感覚。自分が経験したことであろうがなかろうが、感情移入しようがしまいが、こういうふうに考えさせられて深まる作品って良いなぁと思うようになりました。
「それぞれの立場を主張するためではなく、お互いの声を聴くために」
スタッフブログにもあった『共生』とは「過去も今も共存させていく未来」という言葉が素敵だなと思いました。文化や発展にも適用されるのですね。
新しいものだけが良いでもない、伝統だけが良いでもない。
文化、立場、価値観を踏まえて、お互いの歩み寄り。
「(新しく開発することは)雑多性、個性の喪失」 →「失われたものは取り戻せないんだよ」
当たり前の良さ、というのは何かが変わりそうになって初めて自覚する人が多いです。本当の現状維持こそがある意味一番難しい。
たとえば広義のインフラなど、日々の生活を支える仕事はとても大事なことですが、順調な時には当たり前で済まされて、少しでもトラブルがあると問題にされます。
1-2話あたりで「あれだけ活気のある商店街や良い風景のある街並みを、わざわざ再開発する必要がない」という感想も結構あって、客観的に見て自分もそうだと思いました。
しかし実際にあの場にいたとして、商店街に限らず
「現状維持を頑張りました」という報告があったならば、それはそれで結構な反発もあったのではないでしょうか。改革を求められてあの立場にいるのですから。
アニメ『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の
「生きることは、辛いことと楽しいことの繰り返し。毎日が今日と同じでいいの。人生で今がいちばん若い時だし、今をしっかり生きたいの」
というセリフを連想します。
そのほかに良かった要素や、個人的な関連作
●星野源さんの演技
裏がありそうな、でも優しくあってほしいような独特な雰囲気が素晴らしく、他のドラマも観てみたくなりました。スムージーづくりや靴磨きはサービスシーン 笑
星野源が演じる平清志は当初、若者たちと高齢世代との対立を軸とするプロットのため登場人物として存在しなかったが、若者たちと高齢世代の間で戦うキャラクターが欲しいというプロデューサー・佐野の提案で登場することになった
平が一番好きな登場人物だったので、ありがたい英断!!
●緒方恵美さんの演技(声優)
AIの音声役なんだけれど、声に表情があってとても上手かったです。悪意や嘲笑も冷静さも。
●山田杏奈さんの演技
透明感やホラー感もある一人二役で、特殊メイクなし、アドリブに任された部分が多かったそう。
●SF的な要素
ここ最近、三秋縋『君の話』、グレッグ・イーガン『しあわせの理由(表題作)』という小説を読んだり、
ゲーム『白昼夢の青写真』をクリアした矢先だったのもあり、
これらとの設定(メタバース、AI、作られた人格や感情、大切な人など)とも、何となく対比できる気がして、面白かったです。
何より映像作品なので、SF/AIの視覚的な演出(スマートグラスのUIなど)、実写の融合がスタイリッシュなところが純粋に格好良かったです。
アニメでいうところの『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』『東のエデン』的なSFガジェットによる中二心をくすぐられる感じがします。
なお色彩については、自分が韓国ドラマにハマるきっかけとなった『スタートアップ:夢の扉』などを参考にされたそうです。
●古き良き商店街という場面
同じく吉田さんが手掛けたオリジナル脚本(原作無し)の、アニメ『たまこまーけっと』『たまこラブストーリー』も連想されてファンとして嬉しかったです。
●音楽
綺麗な音色もあれば、無機質で不透明な雰囲気の曲もある。
ピアノなどアコースティック楽器のアナログ⇔電子音のデジタル。
劇伴や主題歌(MVも)が場面に合わせて、メリハリが演出されていたと思います。
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